当時の和室の写真
美邸の和室から良材を再利用
お宝が眠る美邸
美邸には、心が躍る素材が見つかることがあります。
美邸とは、手間とお金を掛けた上質な中古住宅を私がそう呼んで
いるのですが、中々そこらに美邸がごろごろある訳ではありません。
今回は、この美邸に関わることが出来ましたので、ご紹介したいと
思います。
昔の上質な住宅はこだわった住まい手さんが、大工に任せきりで
好き放題に建てた家、なのかも知れません。
仕上げや仕様なんて大工から聞いたこともありません、と聞きました。
実際、昔は大工に依頼すると、予算だとかを聞かずに出来上がってから
これだけ掛かりましたと請求書を持ってくる。
そんな事を住まい手さんにお聞きします。
今じゃ考えられない事ですけれど、当時は結構普通にあったようで。
とんでもない請求書を持ってこられてもねぇ。
払えませんとも言えないし、出来上がっていますから値切るのも…
だからこそ大工の腕にこだわるのでしょうか。
私には絶対出来ませんけど。
大工のこだわり処は和室
特に和室周りは一番職人の手が掛かり、素材的にも良いものが
使われることが多く、解体する前に目を付けるのがここですね。
正に宝物が埋まっている場所ですね。
今回は、現在リノベーション工事を行っている住まいの様子を
ご紹介します。
現場の建築時期は、昭和57・58年頃で、一応新耐震になってから
の建物ではありますが、耐震診断では殆ど耐力の無い判定となり
ました。
耐震補強をすることとなるのですが、
まあ、耐震補強については別の機会に話すとして、
今回は、この住まいの2階の一番奥、当時ほぼ使われていない和室
もリノベの対象範囲となっていた為、事前調査を行いました。
この住まいは、兎に角本気で手を掛けた住まいで、至る所に今では
手に入り難い素材が普通に使われたりしています。
私は当初、この2階の奥にある和室には気が付きませんでした。
(寝室の奥の間でしたので、ちらりと間取りを確認程度でした)
家族の方が引っ越しし、家の中を整理してから、改めて見直して
「これは!」と驚いた感じです。
物置状態になっていた和室の写真
お宝が眠る素材探しが始まる
一見、普通の和室ですよね。
しかし、実はここに使われている木の素材は全て無垢材です。
貼り物は一切ありません。
例えば、幅広の杉一枚板の天井板、長押は柾目が部屋全体にぐるりと
通っています。(コーナーで木目がピタリと合っている)
これは余程素材を選ばないとこうはなりません。
柱以外は全て柾目のヒノキが使われています。
もちろん柱は無地のヒノキですね。
建物全体において、仕事はとっても丁寧です。
床の間は、これまた凝った素材が使われていました。
杉柾の落とし掛け、床柱、黒檀の床框、欅の床板・違い棚とこれを
今買えば一体幾らなんだろうと驚いてしまいます。
特に板材は外してみて分かりましたが、これらすべてが厚30mm程の
ケヤキの無垢板である事が分かりました。
これは使います。
当然、再利用します。
黒檀の床框も出来ればどこかへ使いたい。
床柱はごめんなさい、使いません。(というか私はこのコブが使えません)
和室から板材を取り外した写真
さて、これをどのように使おうか、ワクワクです。
1.長材と短材を剥いで大カウンターに
リビングに庭を眺める大きな窓とアフタヌーンティーカウンターを設計
しましたので、このカウンターに使う事を計画しました。
長さ2800mm、奥行き最大750mmのカウンターです。
3m級の一枚板は迫力満点ですョ。
ケヤキの一枚板を3枚剥いで作っています。
ココではティーカウンターだけでなく、子供さんの勉強机も兼用です。
製作カウンターの写真
これを窓のカウンターとして取り付けたものが、これです。
2.床の間の地板を勝手口のベンチに
1200×500程の欅の一枚板をどこに使おうか悩みました。
厚さ30mm程の板を製剤して頂くと、トンデモなく美しい板に変わりました。
薄いピンク色の素直な木目です。
製材した様子
まあ美しい板目です。
これが玄関ベンチなんて、なんて贅沢な・・・
で、出来上がりがこれです。
如何でしょうか?
板の左側には床に取り付けた際の釘の跡が沢山ありましたので、
その部分を落としてベンチに使いました。
3.違い棚が2枚ありますので、ベンチの背もたれ板へ
あと残り、欅の違い棚が2枚ありました。
これを使わずして処分する事は出来ません。
制作ベンチと勝手口ベンチの背もたれ板に使おうと、デザイン案を書き、
工務店さんにお願いしました。
長さは2枚とも70cm程度しかないのですが、気にせずこれを使って製作
します。(下の板は2枚重ねています)
違い棚2枚
取り付けたところは、完成次第添付して見て頂ける様にしますね。
デザイン原案はこれ
どんな感じで仕上がってくるのか楽しみです。
黒檀の床框は芯材を持つ材料で、最後まで再加工を考えましたが、
既に材料の芯から割れが発生しており、加工によって分裂してしまう
事が予測されるので今回は諦める事にしました。
これは名残惜しい銘木だけに辛い。
次回は、床板編です。
美邸の改修(奈良市)では、奈の町のホームページにて設計監理と完成写真を
ご紹介しています。