ローコストハウスメーカーの建築工事費がいくらか調べてみた

資金計画

今回の目的
予算が少なくても、住みたい場所に土地を買って、家を建てたい。
そんな住まい手さんに、”リーズナブルな”と言われる
ローコストハウスメーカーで家を建てると、いくらで建てることができるか調べてみます。

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  1. 近年の建築費の推移
  2. 坪単価という摩訶不思議な指標
  3. 予算が厳しい人が住宅を建てるための選択
  4. 実際のところ、幾らで建てられるのか、見積書を分析してみます
  5. ローコストハウスメーカー住宅の仕様とは
  6. 結論

住宅購入の相談を受ける中で、よく出会うパターンがあります。
それは、資金計画をせずに、いきなり物件探しから始めるというケースです。

このパターンは実際にかなり多いのです。
運悪く早々に物件を見つけて購入してしまうと、その後、希望通りの家を建てることができなくなる可能性があります。

その主な原因は予想外の資金不足です。
残りの予算で思うような家を建てることができないという事態が発生するのです。

ですから、住宅を建てるために必要な最低限の予算はいくらなのか、また、理想的な住宅を建てるためにはどの程度の予算が必要なのか、これを知っておくためにあらかじめ資金計画が重要です。

それならば、家を建てるのに最低いくらの予算が必要なのか。
少なくとも最低いくらないと家が建てられないのか。

これを、調べてみた。

今回建物は、ローコストハウスメーカーで検討してみます。これは規格住宅であり、注文住宅ではありません。
注文住宅を希望する場合は、4〜5割り増しをイメージして下さい。
※本来は、資金計画で、物件(土地)代と建物費用、そしてその他の諸経費が必要です。

1.近年の建築費の推移について

建築費の動きを示すデータ
「建設物価指数」と呼ばれ、建設物価調査会による

以下のグラフは、木造住宅の建築工事費の動きを示しています。
こちらは奈良県ですが、近郊の都市として大阪の建設指数を使っています。

データの基準点は2015年、その年の建築費指数を100と定義しています。
グラフからわかる事。

  • 2015.1〜2019.夏まで大きな変動はない
  • 2019.9〜2021.5まで、107〜108%
  • 2021.5頃から急激に上昇(ウッドショックとアイアンショックの影響)
  • 2022.1に126%
  • 2022.5には、133%を超
  • 2023年の年明けには、136%を記録。

具体的に例えると、
2015年の時点で2500万円で建築可能だった住宅が、
  ⇩
2023年では約3400万円に高騰しています!!

その間、わずか8年間

例えば、月額5万円の住宅用積立預金の場合
年間では60万円、8年間で480万円の資金ができます。
金利はこの8年ほとんど変わっていないので、
2500万に480万を加えても、8年後に3400万の建築費を組めない
この事から、貯金を積み立てるよりも早く家を建てる方が経済的には賢明だったと言えます。

今となっては結果論ですが。

2,坪単価という謎の世界

「私たちの会社では、坪単価〇〇万円で建築できます」

この坪単価とは?

坪単価とは、
建物の建築費を床面積(坪表示)で割った、単位面積あたりの費用を示す指標です。
しかし、坪単価だけで建築費が安いのか、高いのかを判断できません。

解説:
同じ延床面積と仕様を持つ建物であれば、最終的な建築費がどちらが安いか高いかを比較することが可能です。ただし、これには、建物の階数や形状など条件が同じでなければならないことを覚えておいてください。これは見積もりを比較する為の原則です。

さらに、同じ延床面積と建築費においてA社の仕様とB社の仕様が違えば、どちらがお得かは一目瞭然です。

しかし現実的には、各会社は自社の仕様と規格に基づいて坪単価を表示しています。これを単純に安いか高いかで比較するのは、無理があります。

また、坪単価の違いは設備機器だけでなく、家具、照明、空調、外構工事、給排水工事などが含まれているものと含まれていないものとでは、当然坪単価は全く異なります。これらを一般的に附帯工事と言います。

それでも坪単価という言葉が広く使われているのは、建物の価格を数字で示すことができるからでしょう。 

私の経験で、過去にハウスメーカーに見積もり依頼したことがありました。それは約20年前に地元の工務店とお安いのが売りのハウスメーカーとで、当社の設計図を基に見積もり比較を行った時のことです。結果としては、全然お安くなりませんでした。

ハウスメーカーが割高になってしまった理由
⚪︎ハウスメーカーは自社が扱う商品や仕様を使わないと安くならない
⚪︎建築主の希望する特定商品は仕入れ価格が割高
⚪︎大工が加工して施工する様な建築をしていない

3,予算が厳しい人が住宅を建てるための選択

予算が限られている場合に考慮すべきポイント

建築費に充てることのできる予算を算出すること(資金計画をすること)です。

土地を買って家を建てたいです。予算は土地代も含めて3500万円です。

<資金計画>

土地を購入して家を建てる総予算を3500万円とする。

条件:建物の希望面積が、延べ床30坪。
建築工事総額は、本体工事と付帯工事(解体費、敷地内排水工事、給排水道路接続工事、地盤改良費、外構駐車場費を除く)で構成。

本体工事の費用を坪単価で最低50万(基本仕様)として算出
30坪x50万円 = 1500万円(35坪であれば1750万円)

附帯工事を495万円と見積もります(解体費は別途)。

これにより、合計で1995万円(2245万円)となり、消費税込みで2194万円(2469万円)となります。

以下、付帯工事の詳細:

  • 敷地内排水工事: 80万円(敷地の広さや水回りの位置、敷地内の高低差により変動します)
  • 給水メーター: 10万円(20mmメーターが初めからあれば不要)
  • ガス工事: 35万円(ガス管が敷地内まで引かれていることが必要)
  • 地盤改良: 60万円(調査費3万円、改良杭の深さを4mと想定)
  • 外構駐車場: 80万円(土間コンクリートにアルミ製の屋根付き、シャッターは除く)
  • 外構費: 150万円(敷地境界の塀等)
  • 照明費: 30万円(照明器具の定価から35%引きで算定)
  • エアコン: 30万円(リビング1台、個室1台)
  • カーテン: 20万円
  • 家具: なし
  • 合計: 495万円

資金計画の中には諸経費も含まれます。これには、土地や建物の登記費用、税金、設計費、申請費などが含まれます。これらを合計して120万円と仮定します。(ただし、長期優良住宅やフラット35等の申請費用は除きます。)

以上を合計すると、2315万円(建坪が35坪の場合は2590万円)
そうです。どんなに少なく見積もっても、2300万は必要だとわかります。

したがって、土地に投じることができる予算は、全体の予算である3500万円から上記の建築費用を引いた残りの1185万円となります(35坪の場合は910万円)。

最終的に土地にかけることができる予算は1140万円(875万円)。

この予算内で土地探しを行うことになります。

また、この予算は、物件が更地であることを前提としています。中古住宅を購入する場合は、この予算に解体費を含める必要があります。

4,実際のところ、幾らで建てられるのか、ハウスメーカーの見積書を分析してみます

画像は著作権があるので公表できませんが、各工事の価格を、内容を下の表にまとめてみました。

2ページに渡る見積もりの内容を見てみます。

  1. 建築工事の費用は、本体工事と附帯工事1という2つのパートで表示されています。これらは建物自体の建設にかかるコストを示しています。
  2. 附帯工事2では、カーテン、照明、エアコン、家具、解体、造成、外構工事などのコストが明記されています。これらは、建物自体の建設以外の、敷地内での工事や、建物完成後の内装などにかかるコストを示しています。
  3. 附帯工事3では、給排水関連の接続・引き込み工事、地盤改良工事のコストが記載されています。これらは、建物建設のための敷地の準備や、建物の基礎に関わる重要なコストを示しています。
  4. その他の費用として、印紙税、登記費用、火災保険、ローン関係が記載されています。これらは、建物の登記や保険、ローンの手続きにかかる費用を示しています。
  5. また、仲介手数料や、中古住宅の場合のインスペクションや耐震診断等の費用も含まれていることが分かります。

この見積書から分かることは以下の通りです:

     項目  金額        備考
予定建物の床面積は38.87坪本体工事坪単価は328,600円です。本体工事の算定は簡単。施工床面積に坪単価を掛けるだけ。
本体工事の価格は14,049,950円(税込)38.87×328,600x税 = 14,049,950円 本体工事だけでは家は建ちません。附帯工事1・2・3と加える必要があります。
付帯工事11,335,400円(税込)屋外電気配線、屋外給排水、立水栓、雨水排水、仮設費、下水道接続・宅内接続工事
付帯工事2(外構工事のみ)2,000,000円(税込)照明、カーテン、エアコン、家具は対象外(別途役150万程度)
附帯工事3(メーター料と地盤改良、予備費のみ)1,465,000円その他は対象外です。例えば上下水道引き込み工事、地鎮祭費用。 予備費とは、残土処理、草刈り、配線、NTT、アンテナ等で30万円が計上されている
合計で18,850,350円
❶ + ❷ + ❸ + ❹
坪単価では484,960円/坪
申請部分の費用と諸費用の合計 1,530,000円+1,740,000円= 3,270,000円申請費は、基本図面作成、設計料、地盤調査、工事監理費、諸検査費、住宅瑕疵保険、長期優良、フラット35、給付金手続き。
諸費用は、印紙税、登記費用、火災保険、ローン保障料、つなぎ融資利息手数料を含んでいます。
建築工事費用の合計
18,850,350円+3,270,000円で22,120,350円最終的には、照明・カーテン・エアコン・家具で150万とすると、2360万は必要になってくる。

附帯工事2の照明、カーテン、エアコン、家具には、追加の見積もりが必要です。
付帯工事費は建物の大きさに比例して増えるものではありません。

例えば、給排水は水回りの位置に関わり、地盤改良費はその土地の状態と基礎の大きさによって増減します。さらに、外構費は敷地の広さによって増えることが考えられます。

この見積もりでは建坪が38.8坪とされていますが、5坪減らしても本体工事の費用が1,643,000円減るだけです。結局のところ、この見積書からも、実際には2300万円から2400万円が必要であることが理解できます。5坪減らして33坪としても、2200万は必要です。

これを第3項で算出した工事総額と比較すると、ほとんど一致していることが確認できました。

5,ローコスト規格住宅の仕様とは

建築費を抑制する方法は、大きく分けて3つあります。

a) 労働集約的な作業である職人等の人件費をいかに削減するか。
b) 現地での加工を行わず、できるだけ組み立てのみで取り付け可能な建材を使用すること。
c) 如何に建材・設備を安く仕入れるか

これらを達成しないと、建築費は下がりません。

私たち設計者がオリジナルの家を一棟建築するのにかかる職人の手間を考慮すると、それが建築費を抑制する障害になります。

大工が墨付けや刻みの加工を行っている

例えば、大工工事の場合、土台・柱・梁に墨付けと加工(刻み)を行います。
基礎への土台敷き、建て方、大引き、根太敷きから梁・桁の床下地取り付け、筋交いや各金物の取り付け、外壁下地、防水紙取り付けなど、木材を加工したり、表面を削ったり、窓や建具の枠を組んだりと、手間暇のかかる作業が多々あります。特に和室には「パッケージで組み立てる」ようなものがないため、全て大工が手作業で加工します。そのため、柱を見せる和室は割高になります。

一方、ローコスト規格住宅は全く逆のアプローチをとります。

・建て方の材料(土台・柱・梁・小屋組)は、手加工ではなく全てプレカット工場にて加工する
・建具は既製品パックの梱包を解いて組み立てて取り付けます。制作や加工はしない。
・窓枠・建具枠はMDFシート張りの枠の取り付けか、クロス巻きで処理します。
・巾木は床と壁の隙間をボンドで貼り付け処理。
・床はフローリングではなく、下地合板張りの木目柄フロアーを使います
・建材は、全てメーカー品のMDFの基材に塩ビ系のフィルムを貼ったものを使用します。
・軒の出も庇もコストがかかるため、ほとんどないデザイン。
・外壁はサイディングが殆どなので、数年ごとのシーリング打ち替えが必要。
・大工は30日以内で現場を離れるといった掛けるべき日数に制限を設けています。
・大工は基本的に現場加工は行わず、組み立てが原則。
・など

ローコスト規格住宅では、その住宅会社のみの多数のオプションがあります。
そして必要なものをオプションで選ぶことが可能です。
ただし、オプションにないものを注文することはできません。

これらは建築コストを抑えることが目的ですから、注文者が特定の要素を求めるなら、注文住宅が最適です。

6, 結論

20年近く前、私たちの事務所でもコンパクトでローコストな家を設計し、1000万円台の住まいも提供していました。当時の建材の仕様と現在の建材の仕様を比べると、現在のものは数段と高性能になっています。

例えば、20年程前には高性能断熱アルミサッシや複層Low-Eガラスを採用した住まいはほとんどありませんでした。防犯ガラスなどの特別仕様を採用した場合、建具のガラス一枚が10万円などとなっていました。しかし現在では、複層Low-Eガラスは標準で、防犯仕様はオプションで普通に選択できます。

この20年で建材の仕様は急激に向上しました。そして、建築費も、私が初めに述べたように、わずか8年間で36%の価格上昇をしています。

当然、私たちの設計事務所が設計する家の建築単価も同じように上昇しています。ここ数年で仕様が以前とそれほど変わっていないにもかかわらず、見積もりを取ると、坪単価は100万円を超えてきます。

不思議なことに住まい手側の総予算は20年前からそんなに変わっていないのです。
当時は、建築予算に3000万あれば、設計費用を含めても十分可能でした。3500万あれば、1000万程度の土地を購入し、設計が入るオリジナルな住まいの建築が可能でした。

しかし現在は、建築費が増大したため、この予算内で設計業務を行うことは到底できず、更に建築の仕様を自由に選ぶことさえ困難な状況になっています。
当時、自由に設計して建てられたことが、現在ではもう出来ないと言う状況にあります。

可能性があるのは、ローコストハウスメーカーが建てる高性能な住宅を選ぶと言う選択肢です。
もう、この予算価格帯の住まい手には注文住宅は建てられない時代になっていると言うことなのですね。

浅野勝義/奈の町

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