美邸の改修(奈良市) 完成紹介

ご紹介する建物は、在来真壁工法2階建て木造住宅です。
建てられた時期は、1980年代の初め頃。新耐震の時期とは微妙に後1982年頃かも。

この建物は、住まい手さんの祖父母が建てられたもので、手間を掛け、材料を選んで
造られています。 この様な住まいを美邸と呼んでいて、ご紹介いたします。

長い事、空き家だったという事で、傷んでいる所や雨漏り、それに使いづらい
部分もあります。
その住まいを私がリノベさせて頂く事で、出来るだけ建物の良さを生かし、
今では手に入らないような素材を再利用し、現代の住まいに要求する性能を確保しつつ、
使い易くて快適な暮らしのできる住まいに生まれ変わる事となります。

良い工務店さんとも工事が出来る事となり、工事は進むこととなりました。

既存建物の外観です。

外部が真壁ですので柱や梁が外部に露出していますね。
屋根もとっても重厚に造られています。
正直、お金が掛かっています。

改修後

改修後の玄関ドア。 このドアは開き戸ではなく、左の壁内側へ引き込まれる片引き戸です。

計画の骨子と要望整理

1.建物の耐震診断を行いました所、評点0.48という結果となりました。

ご存じない方に説明ですが、耐震性の評価を評点と現し、
0~0.7は、倒壊する可能性が高い。
0.7~1.0は、倒壊する可能性がある。
1.0~1.5は、一応倒壊しない。
1.5~2.0は、倒壊しない。
と上部構造評点として示されています。

この建物の評点が0.48となった大きな原因は、屋根が重い事、筋交い等の壁補強が無い。
そして、土台-柱-梁の接続部等に補強金物がない。
大きな原因はここにありました。
屋根はさておき、残りを改修すれば耐震性の向上はかなり見込めます。
設計の目標の一つとして、耐震性の向上は必須です。

2.断熱性と気密性が低く、冬寒く冷暖房費が高くつく。

古い住宅の特徴がそのまま出ています。
広い家ですから余計に厳しいですね。これを解消したいご希望は一番多いです。

当然、断熱改修をします。断熱の目標は最高等級の等級4です。
内断熱はアイシネン吹付、和室周りの外断熱はアキレスQ1ボード張りで、
壁内に防湿フィルム貼りによる高気密対応です。

その他の要望は以下の通り。

3.掃除し易くメンテナンスし易い
4.食器収納は広くコンセントを増やしたい
5.既存建物の良い部分は残したい
6.雨の日は濡れずに車へ移動したい
7.大きなキッチンで家族で料理したい
8.家事動線を最短化したい
9.自宅ワークの為の書斎を創りたい(防音仕様)
10.調理家電を置くコーナーが欲しい
11.ビルトインオーブン、食器洗い機
12.収納をたっぷりとって物が散らからないようにしたい

キッチンからのビュー。

設計者としての計画コンセプト

  • 何気に使われている素材にお金が掛かっているものが多くあるのに気が付きました。
    1枚板大盤のフローリング(と言うより板)、目の細かい杉板が使われた格天井、柱のサイズも大きく、
    ドアはハイクラスの既成ドアが使われています。
  • 出来るだけ全てを変えてしまうのではなく、この住まいの良さを残しつつ、素材をより強調させ
    上品に仕上げたいと考えている。
  • 玄関周りは出来るだけそのままのイメージを残したい。その上で天井へ視線が流れる様な工夫を
    考えたい。
  • リビングは、ダイニングキッチン(7.5畳)に繋がる和室(6畳)が使われており、和室4間がほとんど
    使われていないまま、放置されていた。
    その為、まず大空間のLDKを取り、その空間の中でコーナー分けするイメージで構成。
  • 想定している以上の収納スペースをきちんと確保しつつ、大量の所蔵本が収納できる書棚を制作
    したいと考えている。
  • 敷地や床の傾斜・段差が多いので、家の中全てをバリアフリー化する。
  • 危ないストリップ階段は、緩勾配の階段へと造り直す。
  • 駐車場まで廊下を延長して、雨に濡れずに家に入ることが出来るルートを新たに造る。
  • 洗濯場と選択物干し場は屋内に欲しいという要望を叶えたい。
  • 1階と2階を繋ぐ空間を創り、可動で分割出来たり解放出来たりしたいと考えている。
  • 2階に親子の読書コーナーを創りたい。

建物紹介

玄関ホール

既存玄関ホール

兎に角、広い玄関ホールです。特に天井にこだわりが見られます。
床板はブビンガの1枚板(2850×800)が張られています。

ストリップの階段がかけられていますが、急勾配な事とオープン過ぎて
危ないので架け替えを考えます。

完成

玄関ホールは玄関を残して半分にしました。それでも広いです。

完成玄関ホール

下駄箱は既存のものを再利用。新しい壁を立ち上げて以前の柱と壁を浮き上がらせるようにし、
照明を入れる事で天井を見上げる要素が出る効果を狙っています。

板の間(和室2室)

元々和室の構成は、田の字の四間取りでした。
床の間のある8畳の和室は、そのままで、残りの3室を改修します。

玄関ホールに接する和室と縁側を一体に利用して1室とする方法で、畳を外して
幅30センチのナラフローリングを敷きました。

玄関横の和室。奥の和室と一体に利用予定
後ろの書棚は、3面の収納力を持っており、大量の書籍を収納するために制作した
柱間に浮いている棚は制作家具、デスクはブビンガ1枚板からデザインしたオリジナルデスク

LDK

ホール部。後のダイニングスペースへ
ダイニングキッチン部分

LDKに大空間を用意しました。
その広さは、本間で28.6帖(3尺間で、33.5帖)もの広さがあります。
キッチン上部の吹き抜けと相まって、広く高い空間です。

ダイニングとキッチンスペース。キッチン上部から沢山の光が降り注ぐ。

階段については、玄関ホールからLDK側に接する様に新たに造り替えました。

以前は直階段で急勾配であったため、昇り降りが少し怖かったのですが、
新しい階段は緩勾配で途中に踊り場もあるので小さな子供達も安心して
昇り降りができます。

階段の一番下の段板下が空いていますがここにはお掃除ロボットの基地スペースです。
広いリビング周りは彼にお任せします。

センターカウンターは、2.26×1.2mもある。教室のできるサイズ。後ろはIHコンロ兼食器収納L3.00m。上部の障子は可動します。
センターカウンターにはmieleの大型食器収納、コンロ側には横3連IH(miele)が入っています。すべてオリジナル木製制作キッチン。

キッチン横の家電コーナー

これも住まい手さんの強い要望でした。
沢山の家電リストを提出して頂き、配置と作業性、そして電力量を確認して
制作家具で組んでいます。

左面の上部は後ろ面に通気口が創られており、排熱を上部へ通して換気の吸気口へ
排気するように作られています。電気調理器や炊飯器、オーブンなどの臭排気は
室内にこもらないようにしました。

オーブンは、左の写真奥にある中央部空間に収納済です。

キッチンに接する家電コーナー。炊飯器からレンジ・オーブン、調理器その他一式をこの中に組み込めるように設計しています。
リビング部分。奥の壁は漆喰と奈良墨を混ぜています。
奥のカウンターに座って庭を見るのが気持ちいい。子供たちの勉強机や家事机、ティーテーブルにもなります。手前のテーブルは北海道産の山桜で作ったオリジナル。

ダイニングテーブルは、奈の町オリジナルのテーブルです。
いつもの北海道産山桜製で、Yチェア6脚用に2mの大テーブルにしたのですが、
ここに置くととっても小さく感じてしまいます。

窓の前にあるデスクは、2階にあった床の間の地板(ケヤキ)を再利用して作りました。
2800×700のサイズがあり、子供たちの勉強机になってくれること間違いありません。
ここに座って庭を見ると、とっても気持ちいいです。

外部へ出ると広いウッドデッキも設置しました。
リビング外の濡れ縁。
春は庭の花、夏はスイカ、秋は昼寝、冬は夜空を愉しむことが出来ます。

洗面脱衣・選択物干し場

以前の洗面脱衣所

独立した洗濯・乾燥が出来る部屋が欲しいというご要望から、洗面脱衣所に
繋がったランドリースペースを設けました。
ちなみにこの部屋だけで、6.3帖(@910)の広さですから、物干しも十分な広さ。

洗濯機、乾燥機ともmieleを組み込みました。乾燥はガスのかんた君を検討して
いましたが、ガス(プロパン)を辞めて電化する事で、こちらを選択しました。

洗面脱衣所と奥の洗濯物干し場
キッチン横にある洗面脱衣場。以前までは浴室から出ると、とても狭く寒かったという事で、これを解消する様に設計しています。
洗濯機・乾燥機、SKを並べて作業性をあげている。天井は一部エコカラット仕様

クローゼット収納

要望にありました家族全員の服類が収納できるクローゼットを制作しました。
その一部をご紹介します。

家事デスクも用意しましたので、裁縫もアイロンもここで準備できます。外出前のチェックも姿見鏡で用意が完了します。
Tシャツ、ブラウス等の皴になるものはこの杉の棚に収納して頂きます。


2階ファミリーライブラリーコーナー

2階納戸部分。ここのスペースを使いました

2階に、便所・洗面手洗いそしてシャワーブースが一緒にあるスペースを創り、
その空いたスペースに、ライブラリーコーナーを創りました。

私からの提案だったのですが、住まい手さんにも良いなというご返事を
頂いたので、ちょっと変わったスペースにしました。

このスペースの隣はキッチン上部の吹き抜けとなっており、ライブラリーコーナー
と障子で繋がっています。

2階ライブラリーコーナー。絵本を読んだり、ホワイトボートに絵を書いたりと、親子の時間を愉しんで欲しいと思ってつくりました。

この空間の側面は障子がはまっています。

障子が2枚ある事でプライベートなこじんまりとした空間になっています。
障子を可動すると、空間が吹き抜け・キッチンへと繋がり、広々としたオープン空間へと変わります。

2階フリールーム

以前は寝室であった部分。暗いイメージから一新しています。
フリールーム。バレイ用に使う鏡を入れたことで更に広い空間に見えます。

勝手口

以前の勝手口

住まい手さんは雨に濡れずに駐車場へ行きたいというご希望でした。
そこでクローゼットから駐車場に向かって廊下をつくりました。
これはこれでとっても私は気に入っています。

駐車場まで長い廊下に見える様な工夫をしています。

勝手口に手洗いと小さなクローゼット収納、下駄箱、ベンチを置く事で、
家族専用の玄関が出来ました。

その他、ご紹介したい部分や空間はまだたくさんあるのですが、
これ位で終えたいと思います。(プライベートな部分もありますし)

ご覧頂きまして有難うございました。

浅野勝義/奈の町

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