前回は中古住宅の土地(主に道路)についてお話してきました。
今回はこの続きとして建物についてお話ししたいと思います。
これは私の実際の設計経験の話です。
老後のためにリノベーションを考えて購入した物件が、調べてみると問題が多く、構造にも無理があることから安全性と暮らし易さを考えて建て替えになった話です。
住まい手さんからは、こんなご相談でした。
「奈良市〇〇町で中古住宅を買っています。ここで老後住もうと思っていますが建物を見て頂けますか?」と。
不動産会社から中古物件の紹介を受け、建物の状況を殆ど理解しないまま購入を決めたそうです。
これからお話しする内容は、中古住宅を購入してリノベーションを考える際は、必ず建物の事前調査が必要ですとお伝えする事です。
中古住宅の購入リスクは、見ただけでは判断できない事にあります。
1.こういうケースは結構ある。
実際のところ、結構おられるのではないでしょうか。
建物の痛み度合いや耐震性などを仲介業者が説明してくれる訳ではありませんから、中を見て住むには問題なさそうだなと思って購入してしまうケースです。
この物件も結構な費用を払って購入されました。
2.実際の建物の様子
日を改めて現地を確認に伺いました。
建物は間口が狭く、奥行きの深い、総2階建ての古い建物です。
物件概要書には、昭和51年と書かれていましたので新耐震以前の建物です。
建物の正面を見ただけで1階短辺方向に壁が全くない構造で、安全性は全く期待できない造りです。 敷地の条件や車庫などを考えるとこの様な間取りが考えられるのですが、現実には無理な構造です。
内部に入ってみました。
1階内部は窓も風の通りもなく真っ暗で、一番奥にキッチンの流しが確認できる間取りでした。水回りも狭く、浴室部分だけがブロックで造られています。
2階はホールに和室2間と洋室、その隣に天井の高い(勾配がいびつ)洋室がありました。 調べてみると、奥の洋室は以前バルコニーだったものに部屋を増築したようなつくりです。
更に上へと登る階段があり、(木造2階建てのはず)そこには部屋が2室屋根裏のような形状でありました。・・・いったいここで何人が暮らしていたのだろうか。
2階部分に雨漏りの痕も見られました。 床に傾斜があり、建具も古くあちこち隙間がある。
壁にこぶし大の穴をあけて見てみましたが、断熱材はペラペラのものが1枚でした。筋違い等は資料がないので不明です。
全体を図面に落とし、検討してみます。
2階の減築や一部撤去も検討してみました。
耐震診断も行いましたが、1階の短辺方向の耐震性がほぼ無し、内部壁の通りもずれていることも問題です。
建物が歪んでいるのは仕方ないのでやり替えるなら構造部分を残して全面的に行います。
外壁の全面やり替えもあります。
基礎周りの修繕は難しいのもネックです。
雨漏り痕を確認しましたが、ここだけではないでしょう。
3.それだけの費用をかけてリノベーションする価値がこの家にあるのか?
そもそもこの建物は大きすぎます。
夫婦二人で暮らすのには広すぎる建物です。
総合的な結果を住まい手さんにお伝えし、建て替えすることになりました。
(実際、この後に解体してこの判断が正しいことが証明できました。)
4.ローン予定で購入した場合はどうなるのだろう。
今回の住まい手さんが、建て替え可能な予算を持ってられる事が幸いでしたが、一般にリノベーション目的が建て替えとなった場合、果たしてその費用が用意できるものでしょうか?
また、リノベーションと言っても全面改修ですから千万単位の改修費になります。もし、これがローンで改修を考えていた場合はどうでしょうか。
〇建物が昭和51年ですから旧耐震から耐震補強が必ず必要です。改修後の耐震基準適合証明書が無ければローンは出ません。
〇建物の違反建築物の場合は、購入時に住宅ローンを受けることは出来ません。適合していることの証明が必要になります。
〇そもそもリノベーションと建て替えは、予算自体が違います。
まとめ
もし、この住まい手さんが中古物件を購入前に、調査を依頼していたらどのように変わっていたでしょう。
中古住宅のリスクは、見ただけでは建物の状態が確認できないことなのです。
購入前に調査をすれば、
〇建物がどれくらい傷んでるかが分かる
〇改修費がどれくらい必要かを知ることができる
〇購入しても良いかの判断が出来る
そうすれば出費を抑えられるばかりではなく、失敗する確率が格段に減ります。
確かに調査依頼は結構な費用が掛かります。
でもその費用は、安全な家を手に入れる為のリスク回避の費用です。
大切なことは、購入前に調査することです。
購入してからでは意味がありません。
後から失敗だったことが分かるだけですから。
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